村の境界や道の分かれ目に祀られ、外部からの災いや病を防ぐ役割をもつ「道祖神(どうそじん)」。日本の民間信仰として全国にその姿を見ることができますが、その由来や起源などが気になっている人も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、道祖神に関する多くの疑問についてわかりやすく簡単に解説します。「道祖神とはどんな神様?いつからいるの?」「長野県でよく見かけるけどなんで?」「そもそも道祖神は何の宗教?仏教と関係がある?」など、道祖神について気になっている人はぜひ参考にしてみてください。
道祖神とは?起源と歴史を簡単に紹介

出典:Wikipedia
『道祖神(どうそじん)』は、生活・習俗と密着した日本の民間信仰における神様です。村の境界や道の分かれ目に、石塔・石碑として立っていることが多いですよ。
起源についてははっきりとわかっていませんが、古代中国にあった道の神様を祀る風習と、日本における塞(さい)の神様が習合してできたものと考えられています。
平安時代にあたる8世紀頃には「道祖」という言葉に「さえのかみ」という音をあてていたという記録が残っており、この頃から外部の悪いものを防ぐ神様としての役割があったと考えられています。
道祖神信仰自体は長い歴史を持っていますが、現在道端でよく見かける道祖神はほとんどが江戸時代から明治時代にかけて作られたものです。石造りのものが多いのは、各地を巡回していた石彫職人によって作られたためだといわれています。
道祖神の役割を4つに分けて解説
道祖神はもともと外からの災いを防ぐ、旅の安全を守るなどの役割を担っていました。しかし、時代が進むにつれ日常的な事柄全般を助けてくれる神様となり、良縁・子宝・地域守護についても信仰されるようになります。道祖神のもつ、いくつかの役割について見ていきましょう。
境界の守護者・塞の神としての道祖神
境界の守護者・塞の神としての役割は、日本における道祖神信仰の本質ともいえるものです。村や集落の境、分かれ道、峠などに祀られ、外部から侵入しようとする悪霊や疫病を退けてくれると信じられてきました。
医療の発達していない時代において疫病は大きな脅威であり、村全体が流行病に襲われるのは生死に関わる重大な問題です。人々は道祖神を境界に祀ることで、災いから身を守ってもらえるよう祈っていました。
旅の守り神としての道祖神
道祖神は道の分かれ道や集落の入口に祀られていたため、旅の安全を守る守護神としての役割も担っています。
昔の旅は今ほど安全ではなく、旅人は出発時や道中で道祖神に旅の無事を祈願していました。道端に石像や石碑としてわかりやすく祀られていた道祖神は、道案内や道標の役割も果たしていたようです。
結婚・子宝・性の神としての道祖神
道祖神は人々や村の安全を守る役割を持っていたことから、徐々に村の繁栄や家族の幸福に関するご利益とも結びついていきます。
結婚・子宝・性に関連する神様としての側面も持ち、結婚を迎える若者が道祖神に祈願したり、新婚夫婦が道祖神にお参りしたりする風習も生まれました。
秋田県の大館市や能代市など、生殖器を模した道祖神信仰が残っている地域もありますよ。
子供を守る神様としての道祖神
地域守護の役割を持つ道祖神は、子供を守る神様としても知られています。日本の農村社会において子供は次世代のための重要な存在であり、道祖神にはその成長と健康を見守る役割がありました。
また、道祖神は全国で1月15日前後の旧正月に行われる「どんど焼き」とも関係が深く、どんど焼きを「道祖神祭り」と呼ぶ地域もあります。どんど焼きは子どものための祭りであることが多く、1年の成長や健康を祈って開催されます。
道祖神の種類や形状は?
道祖神の形状や種類は場所によって異なり、主に以下のように分類されています。
双体道祖神:男女2人の神様が並んだもの。もっとも一般的な形状。
文字道祖神:「道祖神」などの文字が彫られた石碑型のもの。
題目道祖神: 経文や題目が刻まれたもの。
男根型道祖神: 男根の形をしたもの。
自然石道祖神::自然石の形をそのまま生かしたもの。
道祖神の種類としては、寄り添う男女神が彫られた「双体道祖神」がもっとも一般的です。手を繋いでいるものや口づけするものなど、地域や場所によってバラエティに富んでいます。
少し珍しい種類だと、丸い石の形をした「丸石道祖神」や、石を塔のような形にした「多重塔道祖神」などもあります。また、道祖神は石で造られているものが多いですが、「男根型道祖神」は木彫りのものや人形型のものも豊富ですよ。
道祖神には多くの種類があるため、さまざまな土地の道祖神を比較してみるのもおもしろいかもしれません。
道祖神は長野県安曇野市に多い!
道祖神は全国に広く分布していますが、長野県や群馬県などの関東甲信地方に多く見られます。特に長野県安曇野市には約400体以上の道祖神があるとされ、市町村単位での数は日本一とされています。
安曇野市は石造道祖神の数が多く、これには烏川水系で材料となる花崗岩が得られやすかったことや、有能な石工が多くいたことなどが関係していると考えられています。長野県は道祖神の本場ともいえる場所で、辰野町には日本最古とされる道祖神も残されていますよ。
道祖神と猿田彦神・お地蔵様・庚申塔の関係は?
道祖神は長い歴史の中でほかの信仰と結びつくこともあり、猿田彦神・お地蔵様・庚申塔などを同一視されることもあります。それぞれの関連について詳しく見ていきましょう。
道祖神と猿田彦
道祖神は道の守り神であることから、「みちひらきの神」として知られるサルタヒコとも関係が深いです。これはサルタヒコが天孫降臨の際にニニギノミコトを道案内をした神様であり、旅人や道の神様として崇拝されていることが由来です。
全国にある道祖神がすべてサルタヒコと関係があるわけではありませんが、一部の道祖神はサルタヒコとして祀られていることもありますよ。
道祖神とお地蔵様
お地蔵様には道祖神と同じく「悪いものから村を守る」という役割があり、道祖神はお地蔵様の化身であると考えられることもあります。
日本には「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」と呼ばれる神仏習合の考え方があり、本地垂迹において日本の神様は仏様が姿を変えたものであると見なされます。道祖神は特定の宗教に属さない民間信仰の神様ですが、本地垂迹によって仏教の菩薩であるお地蔵様と同一視されることもありますよ。
道祖神と庚申塔
庚申塔とは、庚申信仰においてその功徳を願うために建てられる石塔のことです。庚申塔のなかには道祖神と同じく村の境界や道の目印として建てられているものもあり、道祖神信仰と融合した形で存在しているものも少なくありません。
また、庚申信仰においては十二支・暦における「申(さる)」が重要視されており、「猿」と「申」が重なることからサルタヒコとも結びついています。道祖神・猿田彦大神・庚申塔は、それぞれが互いに影響しあっている関係だといえますね。
道祖神を祀る神社や関連するお祭りを紹介
道祖神に関連する神社やお祭りとして、特に有名なものをご紹介します。道祖神に興味を持った人は、ぜひ実際に訪れてみてくださいね。
愛知県名古屋市の「洲崎神社(すさきじんじゃ)」
『洲崎神社(すさきじんじゃ)』は、愛知県名古屋市に鎮座する神社です。
境内にはサルタヒコ・アメノウズメの夫婦神を祀る摂末社があり、小さな鳥居をくぐることでご利益を授かれます。鳥居には「道祖神」の扁額が掲げられていますよ。
京都府京都市の「道祖神社(どうそじんじゃ)」
『道祖神社(どうそじんじゃ)』は、京都府京都市下京区に鎮座する神社です。
サルタヒコとアメノウズメの夫婦神を祀り、縁結びや夫婦和合のご利益が有名です。境内には夫婦二神が抱き合う双体道祖神の石像があり、縁結びの象徴として人気を集めています。
長野県・野沢温泉の「道祖神祭り」
野沢温泉の『道祖神祭り』は、毎年1月15日前後の旧正月に行われる伝統的な火祭りです。日本の三大火祭りの一つとして知られており、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
江戸時代後期には盛大に行われていたとの記録が残る歴史ある祭りで、正月飾りや締め飾りなどを焼いて子どもの成長や厄除けなどを願います。迫力満点の大規模な火祭りなので、興味を持った人はぜひ訪れてみてくださいね。
道祖神のまとめ
道祖神は人々の生活を守る神様として、日本の民間信仰において重要な役割を果たしています。何気なく道端で見かける道祖神の歴史や役割を理解することで、日本文化の奥深さを感じられるかもしれませんよ。
一方で、現代では少子高齢化や地方の過疎化によって、道祖神信仰が忘れ去られかけている地域も多いです。日本に根づく文化に目を向けて、大切にしていく姿勢を忘れないようにしたいですね。