6月下旬や年末になると、神社の境内に茅(かや)で編まれた大きな輪っか「茅の輪(ちのわ)」を見かけることがあるかと思います。
しかし、この茅の輪が何のために設置されているのか実はよく知らない、という人も多いのではないでしょうか?
今回の記事では、半年ごとに神社で行なわれる神事「茅の輪くぐり(ちのわくぐり)」の意味や、その起源などについて解説します。
茅の輪をくぐる際のやり方や作法を学んで、神社の参拝をより豊かなものにしましょう。
茅の輪くぐりとはどんな行事?読み方は?
茅の輪くぐりの読み方は「ちのわくぐり」。まずはこの「茅の輪(ちのわ)」について理解していきましょう。「茅の輪」とは文字通り、茅(かや)で作られた大きな輪っかのこと。大きさはだいたい2m前後のものが多いようです。
茅は「茅萱(ちがや)」「菅(すげ)」「薄(すすき)」などの植物の総称を指す言葉であり、神社によって茅の輪に使われる材料には違いがあります。
神道の世界では、日常生活を送っているだけで気づかぬうちに災いや厄を溜め込んでしまうという考え方があります。
茅の輪をくぐることでこの災いや厄を祓い、心身を清めて無病息災や家内安全を祈願するという神事が「茅の輪くぐり」です。
悪いものをリセットし、健康で幸せな生活を送るための儀式であるということですね。
茅の輪くぐりの時期は?
茅の輪くぐりは、「初夏」と「年末」に行なわれるのが一般的です。
主に6/30頃に行われるものを「夏越の祓(なごしのはらえ)」、12/31に行なわれるものを「年越の祓(としこしのはらえ)」と呼びます。
「夏越の祓」では1年の前半の厄を祓い、後半をよりよい年にできるよう祈ります。
「年越しの祓」は1年の間に溜まった厄をリセットし、心身共に清らかな状態で新年を迎えようと祈る意味があります。
夏越の祓と年越しの祓は「大祓(おおはらえ)」とも呼ばれ、1年の節目の神事として大切にされています。
いつから始まった?茅の輪くぐりの発祥・起源
茅の輪くぐりの起源については諸説ありますが、「蘇民将来(そみんしょうらい)」という人物の神話が由来とされています。
須佐之男命(スサノオノミコト)が備後国(現広島県東部)を旅していた道中、日が暮れてきたので泊まる場所を探すことにしました。
しかし、ある村で大きな屋敷を構えていた「巨旦将来(こたんしょうらい)」という人物に宿をお願いしたところ断られてしまいます。
困ったスサノオは、次に「蘇民将来(そみんしょうらい)」という人の家を訪ねます。
蘇民将来は貧しいながらもとても親切で「狭い家で良ければ、ぜひお泊りください」と喜んでもてなします。
この心遣いに感動したスサノオは、その恩返しとして「茅の輪」を授け、蘇民将来の一族を悪いことから守ってあげようと約束しました。
そして「蘇民将来の子孫だとわかるように、一族は茅の輪を腰につけなさい」という言葉を残して元の国に帰っていきます。
スサノオが帰ったあと、この蘇民将来の子孫以外の村人は全員疫病によって死んでしまうのでした。
この神話からもわかるように、茅の輪くぐりで使われる茅は、古来より悪いものから身を守る神聖な植物として扱われてきました。茅は神社の注連縄にも使われています。
現在のように茅の輪をくぐり抜けるようになったのは江戸時代の頃からと考えられており、蘇民将来が腰につけていた茅の輪が長い歴史を経て変化したとされています。
茅の輪くぐりのやり方・作法は?
茅の輪くぐりの方法は神社によって若干の違いがありますが、ここでは一般的な手順について紹介します。
基本的には、左まわり→右まわり→左まわりと8の字を描くように3回茅の輪をくぐることになります。
- 茅の輪の前に立ち、本殿に向かって一礼する。
- 茅の輪を左足でまたぎながら、左回りにくぐって回り、正面に戻って一礼する。
- 茅の輪を右足でまたぎながら、右回りにくぐって回り、正面に戻って一礼する。
- もう一度、左足で茅の輪をまたぎながら左回りに回り、正面に戻って一礼する。
- 3周回ったら、最後は茅の輪をくぐり抜けて拝殿でお参りする。
参拝する神社によっては茅の輪くぐりの作法を展示してくれているところもあるので、参考にしてみてください。
唱え詞(となえことば)ってなに?
茅の輪を8の字にくぐる際には、「唱え詞(となえことば)」を唱えるという作法もあります。
代表的な唱え詞には、以下の3種類があります。
「祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ(はらえたまい きよめたまえ まもりたまい さきわえたまえ)」
1周目
「水無月の 夏越の祓 する人は 千歳の命 延ぶというなり(みなづきの なごしのはらえ するひとは ちとせのいのち のぶというなり)」2周目
「思ふ事 皆つきねとて 麻の葉を きりにきりても 祓へつるかな(おもうこと みなつきねとて あさのはを きりにきりても はらえつるかな)」3周目
「宮川の 清き流れに 禊せば 祈れることの 叶はぬはなし(みやかわの きよきながれに みそぎせば いのれることの かなわぬはなし)」※神社によっては1周目の「水無月の~」だけを3回唱える場合もあり
「蘇民将来 蘇民将来(そみんしょうらい そみんしょうらい)」
唱え言葉は口に出さなくとも、心で念じるだけでもよいとされています。また、これらはあくまで「作法」なので、無理して覚える必要はありません。
茅の輪くぐりをする際は、形式だけにとらわれず神様への感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。
茅の輪くぐりが有名な神社
全国の茅の輪くぐりが有名な神社をいくつか紹介します。
1年中茅の輪を設置している神社もあるので、参拝の際はぜひ茅の輪くぐりを試してみてください。
「夏越の祓」と「年越しの祓」の茅の輪くぐりが有名な神社
年2回の大祓で有名な神社は以下の3つです。
- 【東京】神田明神
- 【京都】北野天満宮
- 【福岡】太宰府天満宮
【東京】神田明神

東京都千代田区外神田にある「神田明神」では、例年6月に「夏越大祓式」、例年12月に「師走大祓式」を行っています。
神田明神の大祓神事では、日常生活で溜まった穢れを人形などの形代(かたしろ)に移して茅の輪をくぐる「流却神事」を行っているのが特徴。
詳しい情報は、公式HPよりご確認ください。
【京都】北野天満宮
京都府京都市上京区にある「北野天満宮」は、直径5mの「大茅の輪」が見どころ。
一般的な茅の輪は2mほどの大きさなので、倍以上の大きさの茅の輪くぐりが楽しめます。
例年6月には「夏越大祭」、12月には「大祓」が行われています。
詳しい情報は公式HPをご確認ください。
【福岡】太宰府天満宮

福岡県太宰府市にある「太宰府天満宮」では、6月の夏越祭と、6月25日の道真公誕生祭の日に茅の輪くぐりが行なわれています。
25日の夜に実施される、天神さまの御神霊(おみたま)を慰めるための神事「千灯明(せんとうみょう)」も見どころです。
12月には大祓式が行われているので、気になった人は公式HPをチェックしてみてください。
1年を通して茅の輪くぐりができる神社
あまり一般的ではありませんが、1年中茅の輪くぐりができる神社もあります。
- 【神奈川】江島神社
- 【岩手】白山神社(平泉町)
初夏と年末にタイミングが合わない人は、ぜひ参考にしてみてください。
【神奈川】江島神社
神奈川県湘南海岸に浮かぶ江ノ島にある「江島神社」の辺津宮(へつみや)には、年間を通じて茅の輪が設置されています。
参拝の際は、ぜひこの記事で紹介した手順を試してみてください。
【岩手】白山神社(平泉町)

岩手県平泉町にある世界遺産「中尊寺」の境内にある「白山神社」にも、茅の輪が1年中設置されています。
運気が下がっていると感じる人は、ぜひくぐってみてください。
正しい作法で茅の輪をくぐって、厄を祓おう!
「茅の輪くぐり」の意味や作法などについて解説しました。
季節の変わり目は体調を崩しがちな人もいるかと思いますが、ぜひ近くの神社に参拝して茅の輪くぐりを試してみてください。
ある程度の規模の神社であれば、6月と12月に茅の輪が設置してあるかと思います。
その年の厄や穢れを祓って、毎日の生活をより良くしていきましょう。